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深海で暮らす魚たちの謎に迫る!

深海で暮らす魚たちの謎に迫る!

 深海にはほとんど光が届かない。深海にはとてつもない水圧がかかる。深海には餌が少ない。とにかく過酷な世界で深海生物たちは独自の進化を遂げ、その異形の姿や生き様でわたしたちを驚かせてくれます。それでは日本近海で深海といえば、どこを思い浮かべるでしょうか?駿河湾?それとも富山湾?ズバリ日本海溝でしょうか?
 本プロジェクトでは、沖縄の深海をターゲットとして調査研究を進めます。沖縄の海ときくと、美しいサンゴ礁にカラフルな魚たちをイメージする方がほとんどではないでしょうか。驚くことなかれ、琉球列島の南側には最深部で水深7000 m以上にもなる深海が広がっているのです。しかし沖縄では、駿河湾のサクラエビ漁や富山湾のシロエビ漁のような深海を網ですくうような漁業がないため、どのような深海生物たちが生息しているのか分かっていません。近年、小枝研究員をはじめとする研究グループが台湾の深海から相次いで新種や稀種を報告したように、沖縄の深海にもまだまだ未知の生き物たちが暮らしていることは疑いようがありません。

未知の世界でどう戦うか?

 上述したように沖縄の深海では大規模な底曳漁はほとんどおこなわれておらず、限られた海域で個人漁業者らによってマチ類(フエダイ類)を目的とした小規模なはえ縄漁がおこなわれている程度です。それゆえ、長らくサンプルの収集方法が限定されてきました。しかし、近年は漁具の発達に伴い、非漁業者であっても任意の水深で魚類を採捕することが可能となりつつあるのです。そのため採集方法の工夫と海域の選定次第で学術的な価値の高い標本を得られる可能性が期待できます。
 本プロジェクトでは、200 m以深の深海域に遊漁船等を利用して出向き、一本釣り、はえ縄、たて縄、かご網などの漁法によって採集をおこないます。加えて、当該海域で営業する市場関係者や漁業者からも水揚げされた深海性魚類を集めます。

オオクチハマダイ(八重山)
アオスミヤキ(八重山)

生き物たちとどう向き合うか?

 五感をすべて使ってとれた生き物の魅力を探ります。みため、鳴き声、やわらかさ、におい、そして味。生き物たちはさまざまな情報を私たちに与えてくれます。感覚を研ぎ澄まし、得た情報はほかの誰も知らない知識の宝庫です。その情報の一つ一つを重ね合わせることで、生き物たちの生き様を思い浮かべることができるのです。さらに、こうした研究活動を経て得た知識や経験をイベントや出版物、メディアを通じて発信し、生物をエンターテイメントとして紹介することで間口を広げ、環境問題や生物学に関心を持ってもらうことを活動の根底に据えています。

 なお、本プロジェクトでは収集した標本の一部を小枝研究員と共同で学術標本として保存し、未記載種や未記録種、稀種など学術研究に寄与することも目的としています。

ラブカの観察
アカマンボウの解体

平坂客員研究員と深海魚


 僕は物心ついたころから大小を問わず、珍妙な生物をすいていた。(中略)それにしては、妙ちきりんの極み、あるいはヘンテコの煮こごりともいうべき深海生物には不思議とあまり強い関心を抱くことがなかった。(中略)それは彼らが「どうせ会いに行けない」存在だからなのだと、あるとき不意に理解した。実際にその姿をこの目で見ることができないなら、おとぎ話に出てくる幻獣や特撮映画の怪物と大差がない。この僕自身がこの手で触れられないなら、もはや実在か架空かは大した問題ではないのだ。
 深海魚が決して手の届かいない存在ではないことを知り、堰を切ったように深海魚への興味が溢れ出た。(中略)そう、釣り糸を垂らせば、たかが数百メートルの距離である。深海は決して遠くないぞ。深海魚、みんな採れるぞ。食べられるぞ。浜辺で拾うことだってできるんだぞ。めちゃくちゃ楽しいぞ。幸いにして、僕はそのことに気づけたのだ。だからこそ、僕は率先して、その事実を周知せねばなるまい。


平坂 寛著「深海魚のレシピ 釣って、拾って、食ってみた」あとがきより抜粋

アイザメ科の一種(東京湾)

プロジェクトの進捗

2020年4月1日

標本採集の企画(済)

八重山海域における深海魚採集の企画と調整

2020年5月(予定)

新たなる採集方法の開発

延縄や釣り以外の採集方法の検討・開発

2020年9月

釣りによる採集調査を実施

石垣島沖において魚類の採集をおこなった。

2020年9月

標本作成と報告

採集物は黒潮生物研究所に発送され、標本として所蔵された。
海域から初めての分布記録となる種も含まれていたため、論文として報告予定。

2021年中旬以降

講演会等の開催

得られた研究成果を含む深海魚の魅力に関する一般向け講演会を開催(新型コロナウィルスの影響により延期中)


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