伊勢 優史 Yuji Ise

研究員

  • 1995年4月 京都大学農学部生物生産科学科 入学
  • 1999年3月 京都大学農学部生物生産科学科 卒業
  • 1999年4月 東京大学大学院理学系研究科修士課程 入学
  • 2001年3月 東京大学大学院理学系研究科修士課程 修了
  • 2001年4月 東京大学大学院理学系研究科博士課程 進学
  • 2006年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程 修了
  • 2006年4月 東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所 特任研究員
  • 2008年10月 東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所 特任助教
  • 2014年4月 名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所 特任助教
  • 2018年4月  Universiti Sains Malaysia Teaching Fellow
  • 2020年4月  琉球大学熱帯生物圏研究センター ポスドク研究員
  • 2022年4月~現在 公益財団法人 黒潮生物研究所 研究員

研究領域や意気込み

 地球上のあらゆる海のあらゆる生き物を実際に見て知りたい。色々な事象の多様性を知り、それらの関係性を解き明かし共通性を見出したい。そのような思いで研究を続けています。あらゆる生物の中でも特にわからないことが多く、私を魅了してやまない生物の一つが、現在研究を進めている海綿動物、カイメンです。

 カイメンは、最も祖先的な多細胞動物の一つで、筋肉も神経も内臓もありません。それなのに約6億年前に地球上に現れてからずっと生き残っている不思議な生物です。体の大きさは、成体になっても1 cmに満たないものから、小型のマイクロバス程の大きさになるものまで知られています。また、潮が引いたら水から出てしまうような浅瀬から水深8,840 mといった超深海からも見つかっていますし、海や池や川、湖にも棲んでいます。

カイメンは、現在、世界から約9,500種が知られていますが、早晩1万種を超えるでしょう。日本からは約650種が報告されていますが、私が行ってきた沖縄など日本各地での調査や深海調査から、この倍以上の種が生息しているのは確実です。

これまで知られていなかった生物を一つ一つ見つけていく研究は、非常に地味で時間がかかりますが、基礎科学を支える重要な仕事だと考えています。高知県を始めとして日本各地、世界各地の海で潜って見つけたことや感じたことを発表していきたいと思います。

四国西南部のカイメンの多様性解明

 四国西南部は、日本列島の多くの海域同様、そこにどのようなカイメンが生息しているかが全くわかっていない未調査域です。黒潮が接近することから南方系のカイメンの存在が予想されますし、温帯域のカイメンも生息していると考えられます。実際、私が行った予備調査から、沖縄で見られるカイメンや関東で見られるカイメンが混在しているのがわかってきています。また、世界の何処からも見つかっていない新種のカイメンがいることもわかりました。これらのカイメンを発表、リスト化しながら、南西諸島や瀬戸内海との比較、対岸の大分県や宮崎県との比較や関連性を解き明かします。

海底洞窟に生息するカイメンの多様性解明

 琉球列島のサンゴ礁には様々な海底洞窟があり、それぞれが特徴的な形をしています。海底洞窟の中は、太陽光が当たる明るい場所とは異なる環境になっていて独特な生態系を育んでいます。こういったサンゴ礁の海底洞窟内で最も多様で生物量が多いのがカイメンで、それらの中には生きた化石とも言える“硬骨海綿”の仲間も含まれます。海底洞窟に生息するカイメン類の詳細は、琉球列島のみならず西太平洋全域において殆どわかっていません。私は、これらカイメン類の多様性を解明し、各洞窟間との比較や深海性の種との関連性を調べながら、生物の洞窟環境への適応について解き明かしたいと考えています。

モクヨクカイメン類の探索

 カイメンの英語名はsponge、スポンジです。スポンジと言えば台所で食器を洗うのに用いる合成繊維でできた物体を思い浮かべることが多いでしょうか。これは、元は海洋生物であるカイメンの骨格を使って人間が身体等を洗うのに使っていた物の代用品です。カイメンの骨格を構成する海綿質繊維はコラーゲンで出来ているため、合成繊維よりも肌に優しいと考えられます。天然のカイメンで作られたスポンジは現在でも利用されていて、店頭や通販サイトでも購入することができますが、それらは海外からの輸入品です。世界から約9,500種が知られている海綿動物のうち、スポンジとして利用されているカイメンは、モクヨウカイメン科のカイメンのみです。モクヨウカイメン類は現在約150種が知られていますが、実際に市場に流通しているのは十数種程度ではないかと考えられます。 私は、日本列島各地、特に四国西南部においてモクヨウカイメン類を探索し、それらを国産の天然スポンジとして利用出来るようにすることを目指しています。

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